大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第一小法廷 昭和33年(オ)416号 判決 1963年3月28日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人江見盛秀の上告理由第一点、第二点、第三点後段、第四点ないし第六点について。

原判決が確定した事実によると、本件建物は訴外越山節名義で所有権保存登記がなされていたが、その実質上の所有権は当初から訴外松本清市郎にあつたものであるところ、上告人は右松本より昭和二九年六月一日同人に対する貸金債権三〇〇万円中の五〇万円に対する代物弁済として本件建物所有権を取得した(所有権移転登記前ではあるが所有権を移転する旨の特約があつた。)けれども、その旨の登記未了の間に、右事実を知らない被上告人らは、同人らの松本に対する各債権を保全する必要から、まず同年六月二四日被上告会社において松本の越山に対して有する本件建物の所有権移転登記請求権を代位行使して松本名義に登記手続を経由し、ついで被上告人らは、本件建物につき同年六月二八日東京地方裁判所の仮差押決定をえてその旨の登記手続を経由し、その後において、上告人は昭和三二年七月一九日に至つてはじめて前記代物弁済による所有権取得登記をなしたというのである。このような事実関係のもとにおいては、たとえ被上告人らの申請にかかる前記各登記のなされた当時既に本件建物の実質上の所有権が上告人に移転していたとしても、その旨の登記がなされていなかつた以上、上告人は右所有権取得の事実をもつて被上告人らに対抗できないものであり、また、特段の事情のない本件においては(中間省略登記の合意が有効に成立した事実がないことの原判示判断が正当なことは、後記論旨第三点前段についての理由参照)、前記代位された松本の越山に対する移転登記請求権は当時消滅していなかつたと解すべきであるから、被上告人らのした前記代位登記ならびに仮差押登記は、いずれも有効と解すべきである。したがつて、その後に至つて上告人が本件建物につき松本よりの代物弁済による所有権取得登記をしたとしても、仮差押権者である被上告人らに対抗できないこともまた明らかである。されば、これと同趣旨の見解にたつ原判示判断は正当として是認すべきである。論旨は、独自の法律的見解に立脚して原判示を論難するものであつて、いずれも採用するを得ない。

同第三点前段について。

越山節において中間省略登記の合意したことがないとの原判決の事実認定は、挙示の証拠関係から肯認できる。そして、原判決は「他にこれを認めるに足る証拠はない。」と判示して、所論甲三号証の一ないし三ならびに証人押野鶴造の証言を排斥した趣旨であることは原判文上明らかであり、このことは記録に徴し首肯できる。論旨は、原審の裁量に委ねられた証拠の取捨、事実認定を非難するにすぎず、採用できない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 斉藤朔郎 裁判官 入江俊郎 裁判官 下飯坂潤夫)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例